装いとは違い、あくまでも日常に溶け込む。これは数あるファッション感の一つの終着点に近いのでは?
今回、研壁宣男氏のデザインには“背伸びしない”デザイン性を感じる。
様々なデザイン・表現の服が出尽くしているといえるであろう現在において、洋服が“着こなす“ものから“着させられている”ものになっているのではないだろうか?今の時代、個性やお洒落を求めるあまり、第一に自分の服に合った服を選ぶこと、次にその服を正しく身につけること、そして、最後に自分らしさを加えることが失われてきているのではないか。つまりファッションで自分を“見失っている”人が多いのではないだろうか。そんな今だからこそ、攻め過ぎず、けれど縮こまり過ぎないデザイン性がとても美しく感じられた。
縦長の細身なラインのシルエットがとても美しく、ベロア調の生地やフェイクレザーなどの素材のバリエーションも豊富である。アシンメトリーにカッティングされたものや柔らかく優しいドレープが施されたフォルムなどが、リラックス感のある洗練された大人のライフウェアスタイルを感じさせる。
パーティーのような時だけにクローゼットから取り出されるデザイン性の高いオートクチュールの洋服も一つのファッションの醍醐味だろう。またもう一つ、街に出かける時に、“さらっと”美しく洗礼されたウェアを着て行けることもファッションの魅力であろう。そんなメッセージ性が採れる。
装いとは違い、あくまでも日常に溶け込む。これは数あるファッション感の一つの終着点に近いのでは?そう感じさせる研壁氏らしいショーとなった。
text/Yoshimitsu Yoshioka
photo/Hiroshi Nagayama