アール・ヌーヴォーとアール・デコ期のファッションの変遷を辿って
これは、アール・ヌーヴォーを代表する芸術家の一人、アルフォンス・ミュシャの作品である。ミュシャのエレガントで装飾的な作風は、多くの人々を魅了し、今も各地で展覧会が行われている。
「アール・ヌーヴォー」と「アール・デコ」は美術運動であるが、ファッションとのかかわりについて触れられることは少ないのではないかと思う。そこで、両者の違いとその時期のファッションについて探っていきたい。
アール・ヌーヴォーは、19世紀末から20世紀初頭にかけて流行した装飾様式である。フランス語で「新しい芸術」を意味する。自由でしなやかな曲線が特徴的で、花や植物などの有機物がモチーフとして用いられている。
この時期の服はコルセットでウエストをきつく締め、クリノリンと呼ばれる骨組みの下着を用いてスカートを膨らませた、S字型の曲線的なシルエットが主流であった。
(出典:http://www.kci.or.jp/archives/digital_archives/1900s/KCI_135)
1910年頃から、大量生産の時代が到来し、装飾的で富裕層向けであったアール・ヌーヴォーは次第に衰退していく。そこで登場したのがアール・デコ。曲線美を特徴とするアール・ヌーヴォーとは対照的に、直線や幾何学図形がモチーフとなっている。
アール・ヌーヴォーからアール・デコに移り変わるにつれて、ファッションも大きな転換期を迎えることになる。
20世紀初頭まで、女性はコルセットでウエストを過剰に締め付けていたため、健康への影響が懸念されていた。一部の医者などが脱コルセットを訴えていたが、一般に広まることはなかった。
(出典:https://artsandculture.google.com/asset/the-new-detolle-corset-with-back-lacing-by-mainbocher/WgHR3_lm2qrDNw)
1906年、デザイナーのポール・ポワレがコルセットを使用しないドレスを発表したことにより、女性の服は直線的なシルエットへと変化を遂げる。女性の身体はコルセットから解放されたのだ。
(出典:http://www.kci.or.jp/archives/digital_archives/1910s/KCI_151)
(出典:http://www.kci.or.jp/archives/digital_archives/1910s/KCI_155)
美術や建築のイメージが強いアール・ヌーヴォーとアール・デコ。しかし、それぞれの時代ではファッションスタイルが大きく異なる。曲線から直線への移行、脱コルセット。アール・ヌーヴォーとアール・デコの時代は、ファッションが多様化していく一つの大きな転換点であったのではないか。
Text / 川井恵