ぼんやりみえるビルの輪郭の間にとおる湿った空気
それがなんだか心地いい。
10月14日、表参道ヒルズにてデザイナーの岩田翔氏と滝澤裕史氏によるtiit tokyoの2020年春夏コレクションが発表された。今回のコレクションの着想源は、都市空間だという。雨の日の水溜りにうつる風景や雨の後の濡れた窓の露越しの街並みなど都市のいつもと違う見え方をインスピレーションに世界観がつくられていった。
今回のコレクションはtiit tokyoらしいドリーミーなムードを残しつつ現実感のある雰囲気が印象的であった。デザイナーの岩田氏によると、今シーズンから真っ白なキャンバスにデザインを描いていくのではなく、見慣れた風景を背景にデザインを進めていったという。
ランウェイに降っていた円形の紙吹雪はショーの開始とともにやみ、美しい雨上がりを演出した。地面に落ちた紙吹雪たちはまるで乱反射したように光り濡れているようである。
2020年東京オリンピックのエンブレムにも使用されている見慣れた市松模様も刺繍のスティッチを埋めて作られるという新しい提案によって新鮮な見え方をする。地面のタイルやビルの外壁の規則正しい模様が、雨や水に反射することによって歪んで見えることを思い出させるようなルック。
tiit tokyoに期待されるドリーミーなムードを一手に引き受けたルックである。ストライプガラスに雨露が流れ落ちていく様を彷彿させるドレス。ドレスの上から雨粒が滴り落ちていく心配を足元のサンダルが受け止めた。
今回もよりリアルな世界観を作るためメンズも採用されている。
道を歩いていて人間の生活している気配を感じづらい都市の中で、無機質の中にある温もりを見出し表現された今回のコレクション。私たちの生きる世界により寄り添ったファンタジーを届けてくれたという点で、これまでよりもドリーミーであるのかもしれない。
text/越智 柚月
photo/櫻田 美羽