Fashion, Collection, Tokyo 2020 S/S

Nobuyuki Matsui 20S/S Collection

水鏡が映し出すもの

10月16日渋谷ヒカリエにてNobuyuki Matsuiの2020年春夏コレクションが発表された。

2020年春夏シーズンのテーマは「水鏡」。鏡の存在しない時代、水面は自分自身の容姿を確認する唯一の手段だった。水の反射は服をどのようにうつすのか。自然が作り出す鏡は何をうつしとるのだろうか。キラキラ光る姿、歪みをはらみ、透けてぼやけた姿、反転した姿、時には知られざる内面をうつしだしたかもしれない。

テーマをもとに会場の天井からは雫のようなガラスが吊るされ、ガラス同士がぶつかり合い自然の美しさを想起させる重奏のような音色がヒカリエに響きわたっていた。

そしてフロア一面を覆う藍色のカーペットは、廃棄処理される予定だった衣類によって製作されている。「伝統や職人技術から生まれる手仕事を大切にし、長く大切にできるような服を目指す」というブランド創設当初からの姿勢を反映したインスタレーションで、衣類の回収、染色、縫製の全てのプロセスをアトリエのチームが行った。

Nobuyuki Matsuiのサンプルのほとんどはアトリエで細部までこだわり製作されている。シルエットに関わるパターンから縫製のディティールまでを一貫して手がけることにより、より良い商品の提供を行なわれている。


ブランドの特徴でもある一点物という点では、北海道の洞爺湖でガラス作品を制作しているアーティストの高巨大介氏の協力により、オリジナルのガラスボタンを製作された。たえず水が溢れ続け、凍ることのない冬の泉を思わせる高巨氏によるインスタレーション「野傍ノ泉池」が、2020年春夏コレクションのメイン・インスピレーション。

今回のインスタレーション展示とモデルプレゼンテーションには、時間の経過とともに流れるストーリーが内包された。これらはファッション業界が抱える課題に対するささやかなステイトメントのひとつだったが、「結局は服のことが好きなのです」と語るデザイナーにとって、人びとが身につけるものへの愛情のあり方を問いかけるようなものでもあった。まるで水鏡が、それをのぞき込む人びとの姿をうつしだすように。

Text/櫻田美羽
Photo/ 荘あかり