Fashion, Collection, Tokyo 2019-20 A/W

matohu 19A/W Collection

第二章・雪の恵み

3月22日、表参道ヒルズにてmatohu(まとう)の2019年秋冬コレクションが発表された。

「日本の美意識が通底する新しい服の創造」をコンセプトにデザイナー堀畑裕之と関口真希子により2005年に設立され、日本の歴史やコンセプト、伝統技術などを駆使した作品を発表している同ブランド。

今回のコレクションでは日本や世界各地の貴重な手仕事と出会い、新しいプロダクツでファッションと融合させるシリーズ「手のひらの旅」の第二弾が発表された。
「雪の恵み」と題して、今回も雪の青森県を旅して、こぎん刺し、津軽塗、打刃物などとコラボレーション。
前回と同様にランウェイでの発表は行わず、ロードムビーとデザイナーによるプレゼンテーションで 新しいコレクション発表のあり方を提案した。
unnamed
unnamed-12
————————————————————————————


手のひらの旅・二

雪の恵み

近くにいると見えにくい。遠くからくればその魅力に気づく。

雪国の人は、雪は本当に困るという。いらない余計なもの、早く無くなればいいという。雪のせいで仕事は滞り、移動は難しく、毎日の大切な時間が無意味な雪かきで消えてしまう。そこに住めば、そのやっかいさを痛いくらい思い知るだろう。

遠くから来た大雪を知らない人は、雪国の美しさにうっとりする。外を歩くごとに、その風景に感動する。ふんわりとなだらかな積層。起伏がつくる青白い影。コートの上に花咲く雪の結晶。溶けた水が雪にあける小さい穴。道に積まれた泥雪のまだら模様さえ・・・あらゆるものが魅力をたたえている。 近くにいると見えにくい魅力を、遠くから来た人は子供のような眼で生き生きと見る。その目線のまま、その土地で生まれた手仕事に眼を向ける。すると新しい感動がそこにもある。 津軽地方の工芸の魅力は、雪の季節に来てみると、いっそう深く分かる。今のように車も除雪車もない時代、雪が降ればもうどこへもいけない。文字通り[冬籠り]である。その閉じ込められた時間を、呪いではなく歓びに変えるのが「手仕事」だ。じっくりと腰をすえて積み重ねていく仕事。時間がかかるほど、仕事は緻密になり、歓びは大きく、やりがいは増す。

unnamed-2
「こぎん刺し」とよばれる刺し子の刺繍も、時間が生み出した工芸だ。一針一針が、人生の時間として布に刻まれる。忙しい農家の女性たちは、囲炉裏端でこぎんを刺すときだけは、座っていてもいばれたそうだ。それは楽しみでありながら、家族を想う愛の仕事だったから。

unnamed-4
また江戸時代から続く「津軽塗」という漆塗りがある。ふつう漆器は赤か黒、もしくは表面に蒔絵などを描くのが一般的だ。だが「津軽塗」は「時間」で模様を描く。穴の空いたヘラや布切れで下地に色漆をまだらに塗り、それを何層にもミルフィーユ鍋のように重ねていく。塗り終わると、器の表面は雪がつもったように凸凹だ。だがここから本当の仕事が始まる。せっかくの塗った漆を、なんと紙やすりでトイで落とすのだ。すると表面に波紋のような模様が自然に現れる。どこまで削り、どこでやめるかで模様は変わる。48工程、2ヶ月近く積み重ねてきた時間を3分の2近く研ぎ落とすことで完成する。これも時間が祝福する雪国の手仕事である。

unnamed-3
そしてこれらの模様は、雪が生み出す自然の美しさにそっくりだ。こぎんの幾何学模様は、雪の結晶のようだし、津軽塗のまだら模様は、氷や土が混じり合う雪の道に似ている。 近くでは当たり前すぎて気付かない美しさが、工芸にひそむ。毎日みているものの姿が、物作りの中に自然に溶け込んでいる。春には豊富な水となって津軽の大地を潤す雪は、手のひらの上でも豊かな恵みとなる。


————————————————————————————

matohuのコレクション発表は他ブランドと圧倒的に違い、一着一着をデザイナーが紹介しながらモデルが着用する新作が登場する。
一般の観覧者も服のディテールや背景のストーリーを細かく知ることができ、全体的に時間の流れが穏やかな感覚がある。
そして日本の古くからの伝統的な技術や自然の情景を取り入れモノづくりに取り組むmatohuの服は毎シーズン、丁寧で暖かい印象。
「手のひらの旅」によって次は私たちをどんな世界に連れていってくれるのだろうか。
unnamed-11

Text/櫻田美羽
Photo/ official