Fashion, Collection, Tokyo 2019 S/S

matohu 2019S/S Collection


手のひらの旅

10月16日、表参道ヒルズにてmatohu 2019ssコレクションがインスタレーション形式で発表された。

前回まで慶長の時代の美術工芸や歴史から生まれた美意識をファッションに取り入れたコレクション「日本の眼」を展開したmatohu。今回から、職人の手仕事に焦点を当てた新シリーズ「手のひらの旅」が始まった。


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最初にデザイナーの堀畑氏と関口氏が登場。これまではランウェイ形式での発表を続けてきたが、今回からは新しい見せ方をしていきたいと語った。挨拶の中で、次のように述べた。

「これから、新しい旅が始まります。手のひらから始まる、新しい旅です。今日はその旅の出発点になります。」




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スクリーンにて、映像が流れた。
シーズンコンセプトは「小さき衣」。青森県津軽地方に伝わる「こぎん刺し」をフィーチャーしている。こぎん刺しは刺し子の一種で、藍染の麻の労働着である「小衣」の補強と保温の為に、布地に糸を刺したことが始まりとされている。
映像では、津軽での旅の様子が描かれていた。こぎん刺しの研究所や、職人たちとの試行錯誤の様子、白神山地をはじめとする、津軽の美しい自然がスクリーンに映し出される。



映像が終わると、モデルが登場した。モデルが服を見せると同時に、堀畑氏と関口氏がそれぞれのルックについて説明した。


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刺し子を現代的に解釈したという白の長着。素材にはシルクが用いられており、柔らかな印象である。先の映像の中で、職人の方々が普段使わないシルクの素材に苦戦する様子が流れていた。



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ジャケットの胸の部分にこぎん刺しが施されている。主な素材を麻とするこぎん刺しのプリミティヴな印象を洗練し、ファッションに融合させた一着。堀畑氏が直接モデルにジャケットの襟を立てるよう指示する場面があり、ランウェイショーでは見ることができない光景であった。




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最後に登場したのは、こぎん刺しのオマージュとしてデザインされたルック。ジャケット、パンツにこぎん刺しの幾何学模様がみられる。ジャケットにはカットジャガードが用いられ、レースのような軽やかな印象となっている。

三人のモデルが登場したのち、会場内を覆っていた白い幕が下り、そこには20体のルックが並べられていた。来場者は実際に近づいて、1体1体をじっくりと見ることができた。


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デザイナーの二人は、一瞬で終わってしまうショーでは、全てを伝えきることができず、作り手である職人との距離を感じてしまうと話していた。また、食の世界では生産者の顔が見える取り組みが行われているが、ファッションの世界では顔が見えない、と語っていた。

服には、デザイナーや職人など多くの人々が関わっている。そして、職人の技にはその技法が生まれた土地の背景がある。ランウェイショーではその全てを伝えることは難しい。その為、今回のショーでは津軽での旅の様子を映像で伝える形をとり、こぎん刺しの生まれた土地をリアルに感じさせた。新しい見せ方を追求していき、ファッションの在り方、ものづくりの在り方を変えていきたい、というデザイナーの思いを強く感じた。手仕事に注目し、その美しい遺産を現在のデザインに取り込んだmatohu。ファッションにおける民藝の展開を期待させるコレクションであった。


人が手で作り出したものを見つめ直し、それをもう一度使ってみる。手のひらから始まり、手のひらに戻ってくる。この「手のひらの旅」は、まだ始まったばかりだ。


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Text / 川井恵
Photo / 佐藤楓