Fashion, Interview

クール・ジャパン戦略について 小田切未来氏 インタビュー

小田切氏 紙面画像 のコピー

 

クール・ジャパン戦略について 小田切未来氏 インタビュー


ファッションを文化の位置づけとして捉えない国の考え方。
今我々は率先してそれを革新していこうとしています。


皆さんは“クール・ジャパン”という国主導のプロジェクトをご存知ですか?
 

日本の誇る豊富な文化面でのソフトパワー、いわゆる食文化からポップカルチャーまで、あらゆるコンテンツを横断的に国内外へと発信し日本の経済を活性化させる目的をもったクリエイティブ産業政策を指します。日本のファッションや伝統工芸なども“クール・ジャパン”にとって例外ではなく、むしろ主軸となるような大きな魅力を放つ分野であります。
 

今回はクール・ジャパン海外戦略室 室長補佐の小田切未来氏に、現在の日本のファッションシーンを経済産業省という立場からお話を伺いました。

■国がリードするクリエイティブ産業政策「クール・ジャパン」
 

小田切氏—今まで日本は、国内に約1億3千万の人口がおり、国内だけで食べていくことができたため、海外進出に対して、そこまで積極的ではありませんでした。一方で、韓国は人口が約5000万人しかいないため、国内のマーケットが狭く輸出に特化している。一度国家破綻の危機に陥った韓国は、1998年にキム・デジュン大統領が「文化大統領宣言」を出し、”Cool Korea”を実施しています。現実に日本国内だけで稼げなかったら、海外展開は十分に考えられます。しかし、日本でも国内だけでは稼げない時がもうそこまで迫っており、その危機感を強く感じていますので、クール・ジャパンを積極的に行っていくべきだと考えています。
国が積極的に企業の海外展開や企業同士の連帯を推進していくことは、非常に大切です。
 

企業の海外展開だけを後押しして、国内の経済成長に繋がるのかという疑問を感じられるかもしれません。主に新興国市場の拡大による海外需要を取り込むことで、日本企業が外貨を稼げれば、企業の収益増による雇用創出が期待でき、その結果、消費が進み、経済成長に繋がるといった流れです。ファッションでいえば海外での反響から、日本に多くのバイヤーやプレスを呼び込むことができ、その結果、波及効果で若手デザイナーへの注目の機会も増えてくると考えます。


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シンガポールで開催された”Harajuku Street Style In Singapore”
 

■多種多様なファッションを生む日本のリミックス力
 

小田切氏−洋服の歴史や伝統という観点では、日本はフランスに及ばない点はありますが、日本のファッションは多種多様です。質の高いデザイン、テキスタイルなどを活用したファッションから、かわいいポップカルチャー系、アヴァンギャルドのファッションなど。共通して言えることは、日本は世界中のファッションに関する広義の情報を集約して編集する力、リミックス力があります。日本は他の国の文化を日本流に上手に取り入れ、再編集してきた長い歴史があります。
 

現在のフランス本社Hermésの副社長の齊藤峰明氏と、私は今年二回お会いししていますが、齊藤氏は、フランスの弱点は伝統文化に固執しすぎる傾向にあり、あまり新しいことにトライしにいくい状況にあると仰っていました。日本は常に新しい事に挑戦できることが羨ましい、またそれが強みでもあると。Hermésの副社長が日本人であることは、日本の繊細な感性、間の取り方、追求力が世界に多いに通用し必要とされていることを象徴しているのかもしれません。
 

あんなに小さな東京の集積地に、渋谷、原宿、表参道、銀座などなど異なる価値観がたくさんあり、それぞれのレベルが高いのは世界でも日本だけでしょう。何が足りないかというと、世界に上手に伝える広報力と、ファッションを文化の位置づけとして捉えない国の考え方。今我々は率先してそれを革新していこうとしています。


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Tokyo Fashion Week In Italy フィレンツェのPITTI UOMO展にて特別展示を行う
 

■ヨーロッパからアジアへ
 

小田切氏−多くのファッション関係者は、1980年代に日本のブランドがヨーロッパで一世を風靡した時代を懐古し、目指すべきはあくまでもヨーロッパと思っている人は少なくありません。デザイナーの発想力も無論あったと思いますが、彼らの成功の裏には日本が世界ナンバー1と言われたバブル時代の背景があります。西洋からの日本への憧れを利用しヨーロッパに無かった新しい形のオリエンタリズムを掲げられたからこそ、大きく成功できたとも言えるでしょう。今の日本のブランドが置かれている状況は全く異なります。
 

私たちが生きている間はアジアです。この瞬間、50、100年後のことを考えなければならない。2050年にはインドがGDPトップで中国が二位。世界の図式が変わって行きます。そうなると中国、インドなどのアジア圏での評価、アジアで売れることが重要になります。アジア全体でのリーダーになることは市場シェアナンバー1を意味します。今後日本は人口が減って行く一方であり、海外展開に迫られる時期が必ずきます。ヨーロッパも当然大事ですが、それに加え、アジアのリーダーとしての日本を獲得していくことが目標になるでしょう。
 

そのためにも、点ではなく、面的な広報をしっかり行わなければならない。東京コレクションも中々メディアで取り上げられないのが現状です。そのため、去年から当課では、「東京をアジアのクリエイティブ・ハブとして世界に発信する」という目的の下、「クリエイティブ東京」という運動を始めており、ファッションを含めたクリエイティブ関連イベントをまとめて海外に発信する等の活動を積極化しています。


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Tokyo Fashion Week In India 「ANREALAGE」「mintdesigns」「suzuki takayuki」の3ブランド合同ショーを実施
 

■今後の課題と新しいファッションのあり方
 

小田切氏−やはり、日本人の強さの根底は探求力、オタク力であると思います。海外の評価を必要とせず熟成してきた、洗練されたクリエーションは日本のガラパゴス的風土の成せたことでもあるでしょう。しかし、今後海外向けにオーダーメイドしローカライズし輸出すること、外の需要を意識するとクリエーションは少しずつ変わってくると思います。日本のクリエーションは、必死にかられて作られたというよりも好きなことに時間をかけて作られてきたところに独特の良さがあり、今のうちに手を打っていくことでクリエーションの質と商品を売るというビジネスを両立していくことが大事です。
 

クール・ジャパンはかっこいい日本と直訳できますが、日本人にとって日本のいいものを出しいくことは単なる押し売りであったり、外国人がかっこいいと思っていなければ意味がないのです。国によっても日本の見方が異なり各国のニーズを考えることで海外のマーケット、投資家から良いと思われる日本の商品、財、サービスを提供できます。世界中から見ても日本人はどう自分たちがどう評価されているか知らない国民だと思います。そうなると余計情報収集が大切になってくるでしょう。
 

ファッション業界の人がファッションだけの切り口だけで、ファッションを変えるのは難しく、他の要素と掛け算することが今後益々重要だと考えています。例えば、「IT×ファッション」という切り口では、ECサイト「ZOZOTOWN」が、売り上げを伸ばしています。「マチ×ファッション」という切り口では、VOGUE JAPAN主催の「 FASHION’S NIGHT OUT」などのイベントも複数のお店と連動しながら街ぐるみで盛り上がる新しい試みです。
 

東京コレクションもコレクション自体にプロモーション効果はあまりなく、段々と陳腐化されていくと指摘されています。ブランドの世界観をアピールする上でのショーはサロンとしての存在感を示せます。しかし、お金につながるかは別問題です。現実的に物事を見たときに企業は稼がなければなりません。やはり、ビジネスにつなげていこうというマインドが弱い。自分たちで楽しいこと、好きな事がやれれば良いという考えではいけないのです。世界に進出しにくい要因の一つです。ファッションが好きで熱意があってもそれだけではどうしようもない部分があるわけで、そこを補強し環境を整備し強化していく役割を担っていると考えています。



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パリ、ニューヨークで開催された日本のモダンな工芸品を紹介する”Future Tradition WAO”
 

■学生に向けて一言お願いします
 

何事も人からの意見を鵜呑みにするのでなくて、自らで考え、行動していくべきです。日本人は全体の相場感でやることを決めていて、「普通」を好みます。この傾向が強いから圧倒的な人が生まれにくいのだと思います。私は人が成長することには三パターンあると考えています。新しく人に会う事と、コンテンツに触れる事、思考する事。どれだけ死にものぐるいな経験をしてどういったアウトプットをしてきたかが、社会に出たときに測られる基準になるでしょう。
 

最後に、私の好きなガンジーの言葉を贈ります。
「明日死ぬと思って生きなさい。永遠に生きると思って学びなさい」





小田切未来 (おだぎりみらい)
昭和57年1月19日生まれ。東京都出身。平成19年3月東京大学大学院公共政策学教育部経済政策コース修士課程修了。
同年4月に経済産業省入省。21年に経済産業政策局産業人材政策室総括係長に着任。平成23年に商務情報政策局生活文化創造産業課クール・ジャパン海外戦略室長補佐として”クール・ジャパンプロジェクト”を開始。

Photographer / aki
Text / A.H.


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