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アガベの庭




アガベ  アガベ

まるい指でなぞる
かする文字  薄口なこいぶみ

糸のような涙よ

アガベの庭


アガベの庭

イラストレーター クミイによる展示会

 

原宿のキャットストリートを渋谷側に歩いていくと一軒の古着屋がある。

the Virgin Maryという古着屋である。その古着屋の一角にアガベの庭があった。


私は、アガベの庭というタイトルを聞き、実際に展示会を見たときにとても驚いた。
それはやはり、庭とかそういうものとは全く違ったものに焦点がおかれた展示だったから。

 

「アガベの庭、というのは決してアガベに焦点を当てたわけではないんです」とおっしゃるクミイさん。
「アガベという植物の出で立ちがすごく好きで、少し白がかった葉っぱだったり、静かに伸びていく様子だったりとかが、自分の絵と通ずるものがあるな、と思いました。そのアガベが庭にあったらいいな、と思っていて。その庭を冬に家の窓から見ているような情景。そして、その情景の中から自分の絵で汲み取れることやストーリーを自分なりに組み立てていきました。

アガベの植わる庭を見ている自分から生まれるもの。だから、植物っぽさというよりも、“見えない潜在的な”という意味で“アガベ”を使いました。」



アガベの庭4

アガベの庭5



階段を上り、お店に入ってすぐ、ぱっと目をひく沢山の封筒。
今回の展示は、大小さまざまな封筒の中にクミイさんの絵や、ご自身の日記の一文、集めていらっしゃるヴィンテージの写真、クミイさんによる詩を綴じこめたようだ。


展示を間近でみて、私は、「うわあっ。。」と一声発してしまった。
壁に飾られた少しぼやけた白い、様々な形の封筒から顔を出す絵たち―、そこから覗いている絵たち―。
私は、誰かが恋人に宛てたラブレターをこっそり見ているような気持ちになり、とても恥ずかしくてドキドキしながら見ていた。そんな感想をお伝えしたら、「その感想は、正しいっていうよりも、よかったって思います。」とお答えしてくれた。

 

封筒にしたからにはやはり誰かに届いてほしいという願いなども込められてだったのでしょうか、
そう私はクミイさんに質問した。

 

んー、と少し悩んでこう答えてくれた。
「慣れ親しんだ、自分の身近なもので、人から届いたり自分から届けたりするものという手段の封筒、という。それで、トレーシングペーパーという素材を今回選んで6種類の封筒を作り、ちょっと見え隠れする、わくわくする、どきどきするっていう見えないものを出してみました。特別な入れ物なのかなー。」


< “特別な入れ物”としての封筒。それは、クミイさん自身手紙を書くことがとても好きだからだそうだ。   「そして、そういうなかなか見えないものっていう点でも(トレーシングペーパーは)、“アガベ”と通じてた気がします。」

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展示をじっくりと見ていると、絵とともに添えられている詩がサイドストーリーのようにも感じられた。

 

「私は、絵を描いていると文章も浮かぶタイプなんです。自分の中では一つの絵に対して一つの物語が含まれていたいという気持ちがあります。だから展示を見てて一冊を読んだくらいの気持ちになってもらえれば嬉しいです。」

 

今回の絵はなんだか水彩画のような、白くかすんでいたりぼやけていたりした絵が多かった。(前回の展示会「歯は食器」ではペンで濃くはっきりと書かれた絵が多かった)

 

それに関してお聞きすると、「冬にやる展示というのでそこは意識をしました。」とおっしゃった。

「服ではなく、絵での表現ということで、DMを作る際に協力してくれた方と話していたのが、“もやけ”です。例えば、冬の海は結構もやが出てたりしますよね。あとは、冬独特の“嫌じゃない湿度”、それの研ぎ澄まされている感じを出したいねっていうのを話していく中で決めていきました。」

 

そして、今回の展示では、the Virgin Maryの古着にイラストを描いて、展示、予約販売もしている。



アガベの庭8

この作品は、“目覚めのわんぴーす”というタイトルだそうだ。洋服に書かれた卵焼きのようなお花や、青い三角のお手紙がなんだか朝の目覚めを感じさせる。クミイさんの作品で特徴的なのは、刺繍などを組み合わせて、布に絵を落とし込むという点だ。私はそういうものをあまり見かけたことがなかったのでそれについてもお聞きしてみた。

 

「私の場合、結果ではなくって全部過程で展示をしてます。そう言った点では、ある意味未完成なんですけど。それで、昔からもそうだけど、だんだん自分の絵に合う素材というのを考えてて、それが今回はトレーシングペーパーだったんです。布に書くことで絵も見方が変わるし、『自分の絵を人が持ち歩いてる!』っていうのはやっぱり嬉しいというか幸せだなあと感じます。刺繍に起こすのも、『あ!こんな風に見えるんだ』という感覚があります。だから、今回古着にも描いてみたけど、自分が描いたものを服にしたいとか、そこまでは思わなくて。私はブランドがやりたいわけでも無いし、こんなのができました、という感じでしたね。絵が勝負なんで。

 

最後の一言を凛とした表情でおっしゃってくれたクミイさんのまなざしが私の目に今でも焼き付いている。

 

服をもらってから二か月間は全く絵を書けなかったという。

 

「展示は展示で難しかったけど、服は服で難しかったです。展示は展示でああいう封筒に入れて見せてたけど、服は服で考えなきゃいけないので。


自分が服が好きな分、『ここの胸の部分にこんな絵があったらいいな』っていうのを考えて、自分で着て何度もここらへん、ここらへんってやって、着たときにこうやったらこの絵がこう見えるとかを考えました。なので、ほんとに(展示の)二週間前に書き始めて…。」と少し苦笑いしながら答えてくれた。

 

今回の展示会で驚いたのは、この“きりんの妊婦”オブジェや、卵パックから顔を出す沢山の子犬たちの作品である。ここには載せていないが、オリジナルバッグの裏にはロブスターの刺繍も縫い付けてあった。

 

それはクミイさんの好きなものだったり、最近描くことが増えたものだそう。
「甲羅のある海の生き物がすごい好きで、エビなんてもう、大好きなんです」 と、とても嬉しそうにおっしゃってくれた。



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(キリンの妊婦や、子犬の作品のことをお聞きすると)
「最近になってやっと動物を描くことが増えてきて。骨の位置とか、なんでこうやって足が曲がるのかっていうデッサンの世界をあまり意識せず描いてるから少し不細工でキャラクターっぽいんです。だけど自分なりの動物ってことで、描くことは増えました。」

 

クミイさんによる、個展“アガベの庭”。
白く濁っていて見えるようで見えない、手で透かして覗きたくなってしまうような絵たち。そんなクミイさんの手にとってみたくなったり、覗きたくなってしまうような絵はもちろん、個展の雰囲気が私はとても好きだ。物語の世界に入ってしまったかのような空間である。私は個展を見に行き、時間が分からなくなるほど見てしまった。この絵は何を思っているのだろう、この文章にはどんな思いが込められているんだろう。そう考えながら何度も何度も同じ絵や文章を見ていた。


クミイさんがインタビューでおっしゃってくれたように、個展そのものがまるで一冊の本であるようだった。

 

そして、私はこれからもそんな物語のような絵を見たい、そう思った。


illust / Kummy
Text&Photo / Yuki Furukawa



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