服を全面的に押し出すのではなく、人それぞれの個性をそのまま出す。
10月19日、表参道ヒルズにてtenboの2017 S/S collectionが発表された。今回のテーマは「HANSEN~LEPROSY~」と、日本のハンセン病問題に釘を刺すテーマとなっている。ファッションを通して、今までにハンセン病と診断された人たちが受けてきた差別や偏見、差別による強制隔離などの粗雑で非合理的な政治的処置に対して喚起する様子を、ストーリー仕立てで表した。
ランウェイモデルには、はるな愛やKeiichirosenseデザイナーの由利佳一郎等豪華メンバーを起用。さらに音楽・演出は「となりのトトロ」の井上あずみとMIOSICが担当。そして、ランウェイモデルとして参加した槙ミヨ氏は、ハンセン病回復者として世界初のランウェイデビューを果たした。
ハンセン病とは
日本では「癩(らい)」、「癩病」、「らい病」とも呼ばれていた。ハンセン病は増殖がおそく感染率の非常に薄い病気で、放置しておくと体が変形する恐れがある病気である。だが、医療や病気への理解が乏しい時代に、その外見や感染への恐怖心などから、患者への過剰な差別が生じた時に使われた事からハンセン病に対しての差別や偏見に繋がる。1929年 には、各県が競ってハンセン病患者を見つけだし、強制的に入所させるという「無らい県運動」が全国的に広まった。日本では、1906年からハンセン病患者を強制隔離するという政策は90年にも及んだ。
ショーの冒頭で、ハンセン病についての説明が会場奥のスクリーンに映し出され、不安を駆り立てる禍々しいピアノの音色ともにショーはスタート。
この写真では、「No leprosy patients in our prefecture movement(私達は無らい県運動者だ)」と書かれたコートを着用したモデルが登場し、ハンセン病感染の疑いのある女性を強制的に療養所へ収容する様子を表現している。
また、最後のルックでは手が不自由でコンプレックスだという槙さんの事を考えて「隠したい時に隠せる様に」とコートにポケットが付いている仕様となっている。そして、ファスナーを使う時に指が引っかかるとの事から、プルオーバータイプの上から被るドレスとなっている。ユニバーサルデザインを象徴するデザインであった。
コレクションと言えば、身長が高く整った顔のモデルが煌びやかな服を着てランウェイを歩くといったイメージが強い。しかし、tenboのショーでは、聴覚障害や視覚障害を持った人、肢体不自由者の人等、障害者がモデルとして多く起用された。その一歩一歩には、生きることの重みが詰まっていた。
今回のtenboのショーは、「差別や偏見を受けながらも頑張っている人達がいる」という肯定的な意味ではなく、「同じ人間であるのにも関わらず差別や偏見を受け続けている人達がいる」という生々しい現状を伝えたかったのではないのだろうか。「自分の中の無意識な差別を改めて考えてほしい」というメッセージを感じ取れる。モデル達が力強くランウェイを歩く姿は他のブランドとは一味違う美しさがあった。
Text/江崎 優
Photo/angie