ソールのすり減り、加水分解。避けられない劣化はスニーカーの宿命である。彼らの基本的な寿命は3〜5年と言われている。
履き古されると、捨てられる運命である。しかし、そのスニーカーたちに命を吹き込むクリエイターがいる。Kosuke Sugimoto(@shoetree_2016)氏である。Sugimoto氏は履けなくなったスニーカーを鉢代わりに植物を植える作品、『SHOETREE』を製作している。
筆者撮影
自身の作品について、
見た目の着想は崩壊し、苔むし、建造物のいたるところに植物の根が伸張した遺跡などから得ています。
神秘的で全てが一つであるかのような調和と作品の現実的な状態の維持を目的としています。
バランスの両立、最適な誇張でありデコレーションにならぬよう「劣化の正当化」というコンセプトの基、
制作しています。
(出典:https://www.shoetree.tokyo)
と紹介している。
そのPOP UPが11月8日から11月14日まで、アトモス原宿店にて開かれた。
スニーカー好きにはお馴染みのアップテンポやエアマックス、ジョーダンなどのナイキの人気スニーカーが多く展示されていた。そしてそれらは、人によって履かれたことがわかるシワや黄ばみ、加水分解が進んでひび割れたパーツも多く見られ、その劣化が見事に周りを覆う苔と調和している。まるで、かつて栄えた古代遺跡のような神秘的な雰囲気が漂っていた。
これはスニーカーが「履かれた」という事実がなければ成立しない美しさだと私は感じた。そもそも靴は履く為にある、言うまでもないことである。
しかし、スニーカーが金儲けの手段として扱われているのは事実であり、特にレアスニーカーと位置付けられるものたちは、発売されるとすぐに高値で転売される。
また、その靴を望んで買ったという人も、のちに転売することを視野に入れ、なるべく高く売る為に『美中古品』の状態を保とうとする。スニーカーカルチャーが変化しつつある。
そんな中、11月8日にNikeより、ソールに“NOT FOR RESALE“やヒールには“NO PHOTO”などのテキストがデザインされた、転売を風刺するAir Jordan 1が発売された。
(出典:NIKE 公式 https://www.nike.com/jp/launch/t/air-jordan-1-nrg-sail-varsity-red-black/)
アメリカのスニーカーショップ『Oneness』ではこの靴の購入者に、購入後に紐を通して着用させて帰らせるという施策を行った。本来のスニーカーの楽しみ方を私たちに訴えかけてくれる出来事だったと私は思った。
スニーカーは、お金を儲ける為じゃない、履いて歩く為にある。お気に入りの一足で街を歩いた時に感じる高揚感を人々は忘れてしまっているのではなかろうか。
きっと彼らは愛着を持って履かれた時に初めて、魅力が光るのだ。こんなことを『SHOETREE』を見て感じた。
さぁ、お気に入りの一足を履いて出かけよう。
Text,Photo / 眞渕来夢