Fashion

前田エマ インタビュー

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撮影/田口まき




美大に通いながら、朗読、ペインティング、エッセイの執筆など幅広い表現活動をしている前田エマさん。
ファッションブランド『ワンピースとタイツ』とのコラボレーションから始まり、装苑ブログ、東京コレクションでの朗読、WWDマガジンなど、ファッション界からも注目されている。

彼女は何を感じ、何を表現しているのだろうか。またファッションに対してどのような想いをもっているのだろうか。
そして、「前田エマ」とはどのような人物なのだろうか。


前田エマさんの表現活動の一つに「朗読」がある。彼女が朗読を始めるとたちまち、その子供のようなしかしどこか大人びた独特の声と雰囲気に、会場中が魅了されてしまう。「6.2m(ロクテンニメートル)」というダンスと朗読のパフォーマンスを行うユニット活動も、定期的に行っている。東京コレクション2013年秋冬シーズンに行われたファッションブランド『furfur』のショーも、彼女の朗読からスタートした。最近の活動としては、動く絵本アプリ(MERRY BOOK ROUND)で、声を担当している。


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左)東京コレクション2013年AW 『furfur』のショーにて朗読をする前田エマさん
右)ダンスと朗読のパフォーマンスユニット「6.2m(ロクテンニメートル)」


「朗読というのは言葉を空気の上に置いていくことだと思っています。それはお芝居とも違うし、声優とも違う。自分の中から言葉が音になって出てきて、それが空気の上にのっていく感覚。それは目には見えないけれど、なんだか私には見えているような気がします。」
と前田エマさんは語る。


子供のころはよく弟に絵本を読み聞かせていたというが、自身の個展をひらく際につくった映像の朗読を担当したところから、活動が広がっているそうだ。


「言葉を発しはじめたときの場の空気がワッと変わる瞬間が本当に楽しい。日常からフッとお話の世界に入る瞬間。魔法使いにでもなった気分になります。聞いてくださる方々がいてこそ成り立つものですよね。録音したものを提供することもあるけれど、ライブで行うときには会場にいる方々と一緒につくっている感覚があります。」


彼女が朗読で読むテキストのほとんどは、自身で書いたものではなく、世の中に既にあるものや、企画者のつくる言葉である。
彼女は、自分で何かを創り出し自己の世界観を表現することよりも、人と関わって何かをつくることに興味があるそうだ。


「私は、表現したいものが具体的にあるわけでも、世の中に訴えたいメッセージがあるわけでもないんです。自分で企画をすることは得意ではなくて、周りの素敵な人たちが創っている素敵なものを、一緒につくったり、その一部になったりすることが楽しいんです。」


「でも、家でひとりで文章をかくことは好きですね。地味にパソコンに向かっています(笑)。しかしそれも、様々な人と接し、いろんな感情に出会うことで言葉が生まれてくると思うので、一人で書いているとは思わないです。」




独自の存在感をはなつ彼女は、最近「アーティスト」と呼ばれる機会が増えてきたという。しかし彼女自身はその肩書きに少し違和感を感じているようだ。


「今の私の職業は美大生。様々な表現活動は人との繋がりの中で生まれてくるもの。面白いからやっているという感覚なんです。今の状態は決してプロではない。両親が美術の仕事をしているので幼い頃からアーティストと呼ばれる第一線で活躍する人たちをたくさん見てきましたが、私は自分をアーティストだとは思いません。」



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多様な活動をしながらも、美大生としてしっかりと油絵を学んでいる。
色彩豊かでダイナミックな絵を描く彼女だが、驚くことに油絵を選んだ理由は、「苦手だから。」


「高校生のころは大好きな写真と映像の方向にいきたいと思っていたのですが、なぜか私には苦手な方を選ぶ癖があるんですよね。あと、父親に『なんでも基本は絵なんだ』と言われたことも影響しています。高校生のときは父の言葉の意味が全くわからなかったのですが、最近油絵を描いていてよかったと思う瞬間がよくあります。絵を描きながら自分と向き合う時間の中で、今まで知らなかった感情にたくさん出会えるんです。例えば最近のことだと、それまで興味のなかった日本画の表現方法が気になり、山口県に雪舟の絵を観に行ったりしました。いろんな土地に足をのばしたり、いろんな絵の前に立ったり。絵を描きながら知らなかったことに耳を澄ましていく作業を通して、いろんなことを学びたいと思うようになりました。私は、絵のプロになりたい訳ではないですが、自分にとって必要なことであると思っています。」


また、彼女がファッション界でも注目され始めたきっかけともいえる『ワンピースとタイツ』とのコラボレーションでは、自らの絵をタイツに落とし込んでおり、2013年の渋カル祭。では、ライブペインティングも行っている。


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前田エマさんは、言葉をていねいに、ていねいに発する。
インタビュー中、その美しい言葉遣いに、何度もうっとりとしてしまった。


「昔から、いわゆる『まじ』とか『超』とかのような『流行語』みたいな言葉を自分が使うことに違和感を持っていました。また、自分が良いと思う本は、日本語の美しさをしっかり紙の上に置いているものでしたね。母が言葉遣いが丁寧なことも影響しているのかもしれません。美しい言葉でなるべく話したいと思っています。」


もちろん、ブログやエッセイに並べられている言葉たちも美しい。


「人に読んでもらう文章を書くことが最近多くなってきました。やはり残るものだから、『いつの時代に誰が読んでも理解できるかどうか』を意識して書いています。内容はパーソナルなことを題材にすることが多いですね。私が、流行のファッションについてや大きな社会的なテーマを書く意味はないと思うんです。そういうものはもっと上手い人がたくさんいらっしゃいます。それよりも、私が感じた私の中にある物語を書くことで、何かを感じてくれる人がいるかもしれない。それは個人的なことかもしれないけれど、多かれ少なかれ社会や時代と繋がっている。そうやって、自分なりの方法で、世界と人と繋がっていけたらいいなと思います。でも主観的になりすぎないよう意識もしています。感情ばかり書くのはあんまり…好きじゃないし。バランスが難しいですけれどね。」


2013年9月から参加している装苑ブログでは、個人のブログ

「今日も、靴下をはこう」とは、またひと味違った彼女の一面を知ることができる。独自の感覚でファッションについて綴っている。


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左)装苑ブログ、2013年9月9日更新「ゴダールのすゝめ。」より
右)装苑ブログ、2013年11月3日更新「京都、に。」より


「学生というある意味自由な立場である私が装苑でブログをかく意味を考え、やはりファッションを通したパーソナルなことを綴るしかないという答えにたどり着きました。私はぜんぜんオシャレではないし、装苑ブログを書いている人の中で一番服を買っていないんじゃないかと思うくらいなんです(笑)。すごく優柔不断なので迷ってしまって服をなかなか買えないんですよ。むしろ、愛着があるものを長く着ていくタイプですね。そこで、自分の持っている洋服や小物たちの私との関係、ひとつひとつの物語を書いたらいいのではないかと考えました。洋服がもたらしてくれるエネルギーって相当なものがあると思っていて、それを大切にしていきたいです。例えば、嫌な用事がある日にお気に入りの服を着ることによって『わたしは今映画のヒロイン。映画の中にだって嫌な気持ちになるシーンって絶対あるでしょ。だから今日は頑張るわ。』とか思えたりしますよね(笑)。量は多くないけれど、自分の持ってるお洋服をひとつひとつ大切にしていくと、袖を通すだけで毎日が愛おしく思えて楽しくなります。そういう感覚を忘れないでブログをかいていきたいです。私の物語を読んで誰かが、自分の物語を思い出してくれたら嬉しいです。」


インタビュー当日の服装にも様々な物語が込められている。



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Dr. Martens …高校生のころ、自分で稼いだお金で買った靴の第一号。
セーター…祖母からのおさがり。祖母が昔ブティックで買ったもので、肩パットを抜いて着ている。
イヤリング…フードブロガーの平野紗季子さんから誕生日に片方もらったピアスを、最近自分でイヤリングに改造したもの。


ひとつひとつのアイテムについて、愛おしそうにニコニコと話す姿が印象的であった。


この日に着ていたセーターをくれた祖母については、
「祖母はすごくオシャレがすきな人で、いろいろなものを持っているんです。服が欲しい時には、服屋より先に祖母の家に行きます。年代物が多くて、着物もたくさんあるので、祖母の家は楽しいですね。」と、微笑んだ。


オーソドックスな服を好む彼女のクローゼットには、中学生のころから着ているものも多い。
「クラシックな服ばかり買ってしまうんです。また、おさがりをもらうことが多いので、いろんな人との繋がりがある服が多いですね。ずっと飽きずに大切にできるものが好きです。」


そんな彼女の服選びに、最近変化が生まれたという。
「今まではファッションは自分の為のものでしかなかったんです。自分の為のファッションは、自分のテンションをあげる為だけのものでした。だから好きなアイテムは『指輪と靴下』。手元と足元は、常に自分の視覚に入ってくる部分だから。でもここ一年くらいで、ファッションが自分の為のものだけではなくなってきた感覚があります。ファッションは一緒にいる人を楽しませたり、一緒に過ごす人との気分のよい雰囲気を作り出すことができると思います。自分の為だけではないファッションもとっても楽しいです。なので最近は、自分から直接は見ることのできないイヤリングも、よく身に付けるようになりました。」


ファッションにもこだわりをもち、日々の生活を豊かにしている前田エマさんであるが、活動の中でファッションに関わることが多いというのは意図しているわけではないそうだ。


「ファッションが根本的に好きな人間なので、自然と関わることができて幸せです。『ワンピースとタイツ』では、私の描いた絵がタイツになって誰かのストーリー(日々の生活)に繋がっています。誰かの生活に多かれ少なかれ関わることができるって、とても面白いですよね。」


最後に、今後のことを伺うと、
「朗読をすることと被写体になること、この2つは今すごくやっていて面白いです。あと、文章をかくことはつづけていきたいですね。最終的な目標は…黒柳徹子さんかな?(笑)
次にやりたいことは心の中にたくさんありますけれど、人にはあまり言わないタイプなんです。地道にやっていきます。
とは言っても、あと一年で大学も卒業なのでオチオチもしていられないですね。今は勉強したいことがたくさんありすぎるので、もうちょっと勉強したい。いつまでも自分が面白いと思うことを面白がってやっていたいですね。」
と、語ってくださった。


周りにいる人、出会う人、言葉、毎日身につけるもの、自分と関わるものたちにたっぷりの愛情と時間をそそぐ前田エマさん。
そんなあたたかくて芯の通った人間的な魅力をもつ彼女の物語のつづきが、気になるところである。



Text / mei