Fashion, Interview

革職人、曽田耕氏へのインタビュー(part I)

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革職人、曽田耕氏へのインタビュー(partⅠ)

 


炎が煌々と、温かな光を放つ—
 
打ちっぱなしのコンクリートの壁に高い天井
うず高く積み上げられた革材
雑多な、それでいて心地よい秩序で配置された家具やオブジェ
試行錯誤の跡が垣間見える作業台
そして、薪ストーブ
 
まるで、アニメや小説の世界で語られる「職人の作業場」そのものを目の当たりにしているようだ。 なんとなく、ジブリ映画の1シーンに迷い込んだ気分にもなる。 鉄工場として使われていた建物を自ら改装したという曽田さんの自宅兼アトリエには、不思議な空間が広がっていた。
 
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曽田耕さんは革で靴や鞄などを作る革職人である。しかし、その作品を見ると多少なりとも驚いてしまう。 バスケット籠のようにぼこぼこと穴の開いたバックや、本来ならば捨てられてしまうはずの革の断片を継ぎ接ぎして作ったサンダルやブーツ。 そのどれもが既成概念を飛び越えた自由で柔軟な(曽田さん流に言うとアバンギャルドな)作風のもと、制作されている。 この場所で生み出される曽田さんの靴や鞄の数々 その少し風変りで、とびきり温かい魅力の根源はどこにあるのだろうか。 そのヒントは、どうやら彼自身の生い立ちの中に隠されているようだ。
 
 
『プリミティブなものづくり』
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もともと図工好きな少年であったという。 買い与えてもらえるのは既製品のおもちゃよりもむしろ「材料」と「道具」。 そのような家庭環境の中で、何しろ作ることが好きだった。 その”好き”を更に加速させたのが、小学生時代、武蔵野美術大学の造形教育研究会との出会いである。大学生が子供たちに工作を教える教室型の美術サークルなのだが、とにかく他と違うのはその徹底された現場主義の方針であった。
「本当にやることがマニアックだったんですよ。所謂その辺でやるような工作とは違って、怪我をしてしまうような作業も平気でやらせてくれるような。とにかくワイルドなサークルでした。例えば竹で何か作るにしても、『この刃物一本で作ることに意味がある』って言って、ドリルやヤスリを使わせても らえなかったり。今思えばすごく影響を受けましたね。何をするにしても試行錯誤で、とにかくプリミティブな方法で。材料も、買うのではなく、適当なものを自分で拾って来たり、誰かから貰って来たり・・・ そういうことがものすごく楽しかったんですよね。」
 
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曽田さんのお話の中に度々登場するこの「プリミティブ」という言葉 日本語訳には”原始的な”や”粗野な”、”素朴な”という言葉が当てられる。少々乱雑な意味合いに感じられるかもしれないが、確かに、曽田さんの作品、もっと言ってしまうと、曽田さん自身の物や人に対する姿勢を表すのにこの言葉はとてもしっくりくるのだ。
 
曽田さんに初めてお会いした日のことを思い出す。その日はインタビューの打ち合わせとしてアトリエに伺ったのだが、初対面として当然のように差し出した名刺を「名刺は結構ですよ」と突き返されてしまった。
「出会うべき人とはこちらがどうこうしなくても必ずどこかで出会い、繋がることができる。だから名刺は基本的にいらないんです。」と曽田さんは教えてくれた。飽くまで自然の流れで。無理に働きかけたり、足掻いたりはしない。そんな一期一会の出会いを大切にする姿勢は、作品に対しても同じである。
 
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曽田さんの作品の中でも特徴的な、廃材を継ぎ接ぎした靴や鞄。使っている材料は他から譲り受けた皮の切れ端で、形もまばらだし、汚れがついていたりもする。
「こんな形、作為的には絶対に切り出せないし、面白いでしょ?」
曽田さんの作品は確かに現代の大量生産、大量廃棄に対して警鐘を鳴らす存在であるかもしれないが、そのメッセージが押しつけがましくないのは、曽田さん自身が何よりもまずは”楽しんで作ること”を大切にしているからだろう。
 
そもそも大量生産や大量廃棄といった社会問題に意識を向けるようになったのは、中学、高校時代。家族の影響もあって、研究者や科学者、大学関係の仕事を選択の道として歩みかけていた。しかし、そこで降りかかるゴミの廃棄や地球温暖化の問題、そしてチェルノブイリ原発事故・・・自分が進もうとしている道が全てそれらの入口に立っているように思えて、その進路は自ら閉ざした。
「人に指示されたことを、たとえ環境に悪いことであっても仕事だからと言ってやってしまうような大人を軽蔑していたんです。パンクロックが好きだったので、その影響もあったんでしょうね。大人に反発してみたり、先のことなんか考えずに今を生きるぜ、みたいなね。(笑)」
そして曽田さんが選んだのは、”確かめる”という進路だった。
 
partⅡへ続く・・・




Text / makiko,miki

Photo / azusa



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