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展示会 “立春 RISSHUN”

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2013O-Jewel All Rights Reserved.

展示会 “立春 RISSHUN”

 


”白梅や ひと日南を あこがれぬ” 石川啄木
春の暖かさがすこしあらわれてきたけれど、まだ冬の厳しさ、しんとした空気の残る2月のはじめ、東京都西麻布のビルの地下2階、ギャラリーの一角には小さな「春」が姿を見せていた。
 

“アートジュエリー”、身につけることのできる小さなアートピースとしてのジュエリーの展示としてTORIKONIAというジュエリーブランドとして活動中の小原洋美さん、蒔絵や螺鈿といった日本独特の伝統技法を活かしたジュエリーを製作している山岸紗綾さんの展示、”立春 RISSHUN”が行われた。
 
“立春”は旧暦でいう年のはじめ。また、季節の変わり目を繊細に感じる日本独特の概念。冷たい雪のなかから小さな芽が顔を出すかのような、力強いはじまり。その意味をこめて、今回の展示会のテーマは”立春”であった。
 
展示を全面的にディレクションしているのが、O-Jewelの大地千登勢さん。「立春」というテーマも大地さんが提案したものである。
展示は、俳句とジュエリー、オープニングパーティーは春を五感で感じてほしい、とジュエリーと立春にちなんだ和菓子やお料理のもてなしもあった。ジュエリーには薄い桃色や、緑色の和紙に筆で繊細に書かれた俳句が添えられている。
 
「俳句は言葉の生け花だ」というブルーノ・ムナーリの言葉がある。季節を感じその瞬間の気持ちを言葉に投じる、春の情景がより瞼の裏に浮かび上がる。
 
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展示会を通してまず感じるのが、その日本性である。季語を盛り込み、五・七・五という短い表現で奥深い情緒を伝える俳句はさることながら、小原さんのつくるジュエリーには、「岩絵の具」と呼ばれる珊瑚やラピスラズリなどの岩を砕いて粉状にし、その粉を溶かして塗るという日本画に用いられる手法で模様が描かれている。また、山岸さんのジュエリーは漆に蒔絵、螺鈿などで装飾を施してある。これらは昔から脈々と続く日本ならではの手法である。
 
小原さんのジュエリーは、淡い色合いが特徴的である。女性的で儚く見えるけれど、力強さも併せ持っている。
 
立春は、さらに三つに分けることができる。「東風凍を解く」「鶯鳴く」「魚氷に上がる」春の風が少しずつ凍った氷を解かしはじめ、鶯が山里で美しく鳴き、少しあたたかくなった氷の割れ目から魚が飛び出す。
 
そのなかでも、「魚氷に上がる」を表現した小物入れは印象的である。小物入れの表面は白く見えるが、よく見ると奥に薄く青が透けている。氷の張った水、その氷面下では、少しずつ氷が解けて生命がうごきはじめている。水晶をつかって表現した白の下に何層にも色を重ねているそうだ。また、ふたを開けると内側は真っ青に塗られており、その真っ青な水底に真珠が一粒だけ沈んでいる。
 
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花のジュエリーのモチーフには、「春告草」という別名をもつ梅が用いられている。その名のとおり、桜より一足はやく春の訪れを告げる花である。
小原さんの作品は白を基調としたものが多い。白という色は儚くありつつもすべてを包み込む強さももっている。小原さんの白は、そういった優しくしなやかな強さを孕んでいるように感じる。
 

山岸さんのジュエリーは、漆という伝統工芸を用いてより日本性がみえるが、それだけではなく微生物や芽、雪山、とんぼ、雷などの独特なモチーフや緻密な模様は、山岸さん固有のものである。漆は縄文時代から存在している古くからの工芸品であるが、明治時代まで漆には4色しか存在しなかった。明治以降に、化学的な色を混ぜることで、多様な色を出すことが可能になった。
たとえば、漆の「白」は絵の具のように真っ白ではなく、茶色がかっている。真っ白を表現するためには、卵の殻を割って砕いて、そのなかから白い殻を選別して貼っていくという根気のいる精密な作業を行う必要がある。白を表現することは新しく、古くからの技術と、新しい表現とが共存している。
 

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山岸さんのつくる蒔絵や螺鈿といった繊細で丁寧な装飾は、見ているだけでぐっと惹きこまれるものがある。それは、幼いときに初めてお雛様を見たときのような気持ちに似ていて、懐古的にそれを思い出す。とても小さいジュエリーのなかにすべてが詰まっている。
 

たくさんの伝統的技術を使いながら、山岸さんの作品で注目するべきは伝統技術だけではない。小さいのに圧倒的な存在感を放つ、その表現力である。ユニークなモチーフは、決してほかのひとには思いつくことがないだろう。印象的だったのは、立体的に、力強く羽根が伸びる指輪。優しく光を反射していてそこには勢いも優しさも共存している。この美しさは本当形容しがたい。
 
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ジュエリーにはアートとして置いて鑑賞する楽しみと、自分がまとうことでうまれる楽しみや美しさがある、と大地さんはいう。観ていても、置いていても美しく、いとおしく、優しいものである。そこには作り手の思いと、ジュエリーを使用する側の思いがある。人と人をつなぐ、橋渡しのような力も持っている。アートピースという側面と、愛おしさをもって日常的に使うという側面があることが、単なる鑑賞品ではないジュエリーの力である。
 

日本人の白は西洋の「真っ白」とは違う。例えば、和紙でつくられた障子越しの光の白、和紙の白。たとえ白でも日本には5色ほどの白がある。日本の色は、自然と切り離せないのである。山吹色、桜色、露草色、たくさんの自然のうつろいからわたしたちは色を得て、表現している。その自然の移り変わりを敏感に感じ取り、それを表現する暦が日本にはある。ふつうに生活していれば見過ごしてしまいそうな四季の変化を見つめて、耳を澄まし、共存することで生きてきたのだ。
 
日本独自のものと同時に、そこには普遍的なものもある。日本性を越えて、今回の展示会には普遍的なものも流れている。愛情をもってつくり、またほかのだれかが愛情をもって、眺めたり、身にまとったりする。その表現に日本性や西洋性、性別、多様な価値観が関わっていることは確かであるが、それ以上にそのどれにも普遍的な愛情が流れていて、その愛情はとても心を揺さぶるものだ。
 
“立春” という春のはじまり。二人の女性の強い感性は、唯一無二であり、同時に普遍的な美しさも含んでいる。ものを作る、ジュエリーを作ることへの揺るがない愛情と、情熱。まさしく冬の寒さの残る雪の合間から顔を出した新芽のようである。




Text / SAKURABA

Photo / TADOKORO






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2013O-Jewel All Rights Reserved.


O-Jewel Brings Art Jewelry to ISETAN
http://www.o-jewel.com/projects/isetan-2013/
Feb.13-18 10:00 am – 20:00pm 1F ISETAN SHINJUKU STORE

伊勢丹新宿 1階

HIROMI OHARA / DIAMONDS & DAUGHTERS / JUN KONISHI / YU-CHUN CHEN / SAYA YAMAGISHI

小原 洋美 / ダイヤモンドアンドドーターズ /小西 潤/ ユーチュン・チェン / 山岸 紗綾

O-jewel http://www.o-jewel.com/

Hiromi Ohara(TORIKONIA) http://torikonia.com/

Saya Yamagishi http://saya-yam.jugem.jp/

 

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