2012年6月15日~17日、東京・渋谷区のJORDI TOKYOで、UNRESSコレクションに際し、シーズンコンセプト「INTO THE OBSCURITY(あいまいな方へ)」を表現した舞台、「あいまいな方へ」が公演された。
予てより友人であった、UNRESSデザイナー矢嶋勇亮さんと、オーストラ・マコンドー演出家倉本朋幸さんが、お互いの持ちうる表現手段を掛け合わせる事で、新たな表現方法を生み出す事が出来るのではないか、という考えから、2012A/Wのシーズンコンセプト『あいまいな方へ』を、舞台形式にて表現することにしたという。
「私は渋谷が嫌いです。」
この印象的な台詞から始まった舞台は、シュンくんという人物とUNRESSのお洋服に関係のある7人が、一年前に通り魔に襲われ命を落としたシュンくん、UNRESSのお洋服、そして渋谷という街について、UNRESSの服を着た役者が独白していくというスタイルのものだった。
「あなたはどうしてその服を買ったのですか。」
「あなたはどこでその服を買いましたか。」
「あなたは服を買う時に、どうしてその服を選んだんですか。」
適所でこの質問が観客に投げかけられ、女優達も独白の中でそれに答える。その中で一人ひとりが、シュンくんについて語って行く。事件の目撃者、バイト先の同僚、後輩、妹、妹の友人など、立場も職種も違う7人が語るシュンくんは、外見の特徴、一面でしか過ぎない性格、職種とUNRESSが好きということ以外情報がない。シュンくんはステージに存在しないため、観客はその証言からシュンくんを想像する。舞台は、独白からシュンくんの妹とその友達がお墓参りにいく場面で幕を閉じ、結局シュンくんは最後まで姿を現すことはなかった。シュンくんは観客が想像する数だけ存在した。きっとその存在も姿もまるで曖昧であったことだろう。
終わり方も曖昧だったからこそ、家路につく途中で、一人きりの部屋で、今作のことを考える。何でこの服を着ているんだろう。普通とは違ったおもしろさを追求した結果だ。そんな部分もあったであろう独白のシーンは女優達の本音だという。UNRESSの服を着た女優と倉本さんが二人、無言で渋谷の街を1時間ほど歩き、その後女優に感じたことを聞いて舞台を構成した。その成果もあってだろうか、演技する女優の言葉にはリアリティーがあり、その台詞から情景がありありと想像できた。
また、観客をショーウィンドウと向かい合わせに座らせ、店の前の道路も使い演技をするなど工夫を凝らした演出も見られた。外の道行く人から見て、観客も演劇の一部として見て貰いたかったと倉本さんは明かした。
デザイナーの矢嶋さんは、シーズンテーマで舞台のタイトルにも含まれる「あいまい」を意識し、クリアじゃないものをめざしたという。曖昧なもの、ことから始まって服をつくるという矛盾、相対するものが共存する儚さ…表現しにくい「あいまい」をうまく表現した作品であったと感じた。舞台後は俳優自身が着用していた服がそのまま展示されオーダーが可能という展示会も催された。新しい展示会の形として服が持っているメッセージ性やコンセプトを伝える絶好のツールになるのではないかと思う。
2012S/Sシーズンからスタートしたメンズブランド、UNRESSの活動に今後も期待が寄せられる。
UNRESS舞台・展示会「あいまいな方へ」
Words by Ayumi.T
Photo by UNRESS