Fashion, Interview

FUTATSUKUKURI


それはよく晴れた春らしい朝だった。デザイナーのお二人と待ち合わせをして、原宿にあるカフェに入った。テラス席に三角形に座る。気持ちのいい太陽に見守られながら、インタビューをはじめた。





FUTATSUKUKURI

可愛くて、ダサくて、でも洗練されていて、カッコよくて


FUTATSUKUKURIは、大阪在住のデザイナー香衣さんとパタンナー温加さんによる服飾ブランド。

コンセプトは、「記憶や憧れにデザインを加えて新しい価値を生み出すこと」である。

香衣さん「幼い頃に憧れていたものを、大人になった自分が実現化するというか。今はその最初の段階でやりたいことがたくさんあるので、それが終わってから本当に新しいことができるのかなって自分では思います。だから、再現とはまた違うけど、昔の記憶にデザインを加えて生み出すといった感じです。」

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お二人の出会いは専門学校。学生時代から仲が良かったそうだ。お二人でやっていこうという決定打は何か、専門時代からお二人でやろうと決めていたのか、という質問をすると、温加さんが「それが、全然そうじゃなくて。」と笑いながら答えてくれた。

きっかけは温加さんだという。温加さんは専門学校を卒業後、いくつかの職を転々とし、アパレルの会社に就職した。その隣で、香衣さんは就職をせずにオートクチュールの先生の元で一年間縫製を学び、劇団の衣装制作など服づくりを続けていた。

なぜ一緒にやろうと思ったかはよくわからないそうだが、きっとお二人を寄せ合う力が強く働いていたのだろう。お二人をみていると、仲が良いのはもちろんのこと、お互いを信頼し合っているのがよくわかる。

温加さんが香衣さんに声をかけた際、「はるちゃんがそれでいいんやったら、やるんやったら、本気でやんで。」と、その場で承諾したという。私は思わず、かっこいい、と少しだけ大きな声をあげてしまった。香衣さんは本当に「かっこいい女子」である。

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服をつくる際、デザインとパターンという仕事は、はっきりと分けているという。温加さんはデザインに関して、またその逆も然り、一切何も言わないそうだ。私は例えば温加さんもデザインを考えることもあるものだと思っていたため、少しばかり意外な返答であった。

温加さん「香衣ちゃんがデザインしたものを、私がパターンを引く、という形に徹しています。これとこれどっちがいいかなとか、そういう時はもちろん意見をだしたりするけど、基本的な考えは、絶対に口出ししないです。」

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服のデザインに関して伺った。やっぱり私は、香衣さんがどんなことを考えて服をつくっているのか気になっていた。「とびきりダサいのが作りたい、ハイヒールを履いていてスニーカーの気分になれる服をつくりたい、懐かしいのがいいけど、レトロとはちょっと違う」など、ブログに記載があるように。

香衣さん「全部試行錯誤というか、まだ全然答えが出ていないんです。まだまだ手探りの段階。その中で、気になるのがレトロとか古着というキーワードです。レトロを一回自分の中に落とし込んで、出していきたいんですけど、それがなかなか難しい。古着が好きな女の子に、着たいって思ってもらう服をつくりたいというのが、今一番考えていることです。」

レトロという言葉は、とても曖昧だ。古風と言うよりも、レトロと言う方がなんとなくしっくりくるけれど、じゃあレトロってなんだろうと聞かれると、上手く答えることができないものである。

香衣さんはさくらももこが好きという記載を見かけた。

香衣さん「さくらももこは好きな人の中でも特に好きですね。好きっていうよりは、それも記憶に繋がるのですが。小学校の頃、りぼんとかを読んでいて、一番熱中した漫画がちびまる子ちゃんでした。それでFUTATSUKUKURIをやり始めてから、なにが好きやったかなあって考えたときに、一番そばにいたのがさくらももこで、すごく自分に影響していました。」。

「デザイナーって、全然価値の付いていないものに価値を付けて、それをいかに流行らせるか、ということを考えているんじゃないかなと思います。私はそれがしたいってわけではないのだけど、自分も服を着るにあたって、全然価値の付いていないものを纏って、「これダサいけどかっこいいでしょ」みたいなイメージですね。」

「ダサいけどかっこいい」って、なんて欲張りな表現なんだ。「ダサいしかっこわるい」との境界線はどこにあるのだろう。それでもそういう、微妙な差から生まれるかっこよさを求めている人って、多いと思う。これだから、ファッションってむずかしい、たいへんだ、でもものすごく、面白い。

FUTATSUKUKURIのブログの更新は香衣さんが行っている。そこで綴られる言葉がとても興味深い。決して難しい言葉や表現を使っているわけではなく、それでいて洗練されていて、どこか優しい気持ちになれるのだ。彼女が綴る言葉は、頭に瞬間的に浮かび上がったものだと言う。

香衣さん「私は話すよりも書く方が楽で、話すよりも上手く伝えたいことを発信できるというか。だから、ああいう場所があることは嬉しいですね。」

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原宿キャットストリートにあるミキリハッシンで、FUTATSUKUKURI 2012夏秋コレクション展示受注会が行われた。テーマは「水色時代」。水色時代とはなんなのだろうか。

香衣さん「私にとっての水色時代は、思春期です。青春の少し手前の恥ずかしい気持ちを、大人、というか自分たちが着れたらなというイメージで、この名前を付けました。」

展示会初日にミキリハッシンへ行くと、強く、なおかつ優しいオーラを放つFUTATSUKUKURIの空間があった。保健室を思わせる水色の柵、モールや毛糸などでくくられたラック、写真家の花代さんによる写真、そしてBGMは、香衣さんがセレクトした音楽だった。

展示会が終わり、元のミキリハッシンのディスプレイに戻っているのを目の当たりにしたとき、少しさみしく感じたのは私だけではないはずだ。そして今でも、あの空間で流れていた音楽たちが頭の中でずっと流れている。なぜだろう、とてもほっとして気持ちが良くて、だけどどこか切なくなる。

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楽しい時間は素早く流れてしまうようで、インタビューも終盤に差し掛かっていた。「お二人にとって服とは何か。」そんな質問をした。お二人は顔を合わせて笑ったりしながら、少し間が空けてから答えてくださった。

香衣さん「私は、服は武器だと思っています。戦闘服。自分に自信がないからこそ、そう思っていて。」

温加さん「私の中では服はあくまでも衣食住の中での衣です。もしかしたら、一番ファッションとは遠い人間かもしれないってよく思うのですが、三年間やって、自分はこの位置で香衣ちゃんのデザインを見たほうが良いのかもしれないし、自分にとってもそれが居心地の良い場所なのかもって思っています。かえちゃんが書いたデザイン画を、ちょっと一手間自分の要素をパターンの線で加える。これを自分の仕事としたらいいんじゃないかなって考えています。だから、自分にとっての服は、わりと冷静な目で見る位置なのかもしれません。」

お二人にとって、気持ちの良い場所というのは、こういうことなのだろう。

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最後に、これからの展望をお二人に伺った。
先ほどよりも少し長めの間をとって、香衣さんが「よし、でました。現状維持です。」と、鋭く答えてくださった。

このように答える人は多くない。東コレに出たい、直営店を設けたい等様々な答えがあるだろう。しかしこの「現状維持」という四文字が、私の心に強く刺さって離れなかった。

温加さん「地味にやっていたい。やり続けることに意味があると思うので、何十年やるとしてもスタートはそのときだと思っています。もちろん今のままじゃダメだけど、今やれること、今目の前にあることをとにかく一生懸命にやることかなと。それが繋がると思うので。このままでいいという意味での現状維持でなくて、そのときそのときの現状を保っていく、ということです。」

香衣さん「どうなりたいっていうのが何回話し合っても出てこなくて。どれもちょっと違うなあ、といった感じで。でもそれが、答えなのかもしれません。本当に、探っている段階です。」

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少しばかりの雑談をして、インタビューを終えた。

何時だって街の人々は冷やかで、それでいてよってたかる。うしろゆびを指されることがあるかもしれないし、はたまたメディアが飛びついて、カメラのフラッシュを浴びるかもしれない。それでもきっと、彼女たちは今の姿勢を崩さないであろう。揺るがない信念を持っているからだ。

今回の記事でお伝えした内容は、ほんのごく一部に過ぎない。謎は謎のまま残しておいたほうがいい。彼女たちの服を見て、着て、そして街を歩いてみよう。そうしたら、見えてくるものがあるはずだ。

私はFUTATSUKUKURIが好きである。可愛くて、ダサくて、でも洗練されていて、カッコよくて。この服を纏うと、不思議な安心感を体感することができるのだ。

こういうときに、「これからが気になるブランドだ!」なんていう決めゼリフがあるかもしれないけれど、そんなの当たり前だ。気になって気になって仕方ない。服はもちろんのこと、お二人の人柄やアトリエの雰囲気など様々なものをひっくるめて、近い距離で見ていきたい、着ていきたいブランドである。

FUTATSUKUKURI web site : http://futatsukukuri.com/

Photo by hanayo  http://www.hanayo.com/

Interview &Text by Kazuhei Kimura


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